海が近い市場は、多くの人で賑わっている。ふらりと立ち寄った旅人、買い物をする親子、仲良く手を繋ぎながら歩いている老夫婦ーーー。平和という言葉が一番似合う。

(えっと、卵を売っているお店は……)

買い物を済ませようとサフィーが歩き出した刹那、誰かに腕を掴まれる。その手の感触と掴み方はどこか懐かしい気がした。そして、体に悪寒が走る。

「久しぶりだな、サフィー。探したぞ」

振り返った先にいたのは、黒い闇をその瞳に宿したディアンだった。



ディアンside

海賊ラピスの船は、ゆっくりと次の島へと向けて出港していく。その船の船長室のベッドには、一人の少女が寝かされていた。意識を失っているものの、その胸は規則正しく動き少女が生きていることを示している。だが、その手には重い枷が嵌められていた。

「サフィー」

ディアンは呟き、意識のないサフィーの頬を優しく撫でる。サフィーの頰には泣いた跡があり、そこをディアンは細長い指で何度も撫でた。