起きた途端、慧さんの腕枕で寝ていることに気が付いて、昨夜の痴態を思い出した。

帰りたくないとわがままをいい、ホテルに泊まることになった所まではなんとなく記憶がある。


『帰りたくない、このまま抱きしめていて』

恥ずかしいセリフが脳内でリフレインされ、喉の奥で声が出た。
望み通り、慧さんの腕の中だ。
しかしまさか、一緒のベッドで寝ているなんて。

恥ずかしくて、気まずい。
わたしはナイトウェアに着替えているが、慧さんはスーツのままだった。
しわくちゃになっている。

(ああ、もう! わたしは何をやっているのだろう)

また迷惑をかけている。
身じろぎすると、慧さんも起きた。

「おはよう」

「おはようございます……」

「気分はどう?」

まだ眠そうな微笑みに、わたしも自然と笑顔を返せた。
目がしょぼしょぼとして、ちょっとかわいい。
寝れなかったのかな。
窮屈な格好のままだし、わたしがしがみついていたから疲れただろう。

「悪くないよ……大丈夫」

あんなにパニックになって……恥ずかしい。
でもぐっすり眠れたし、今は昨夜の混乱が嘘のように落ち着いていた。

「けがはなかった? 痛いところはない? 昨夜は確認できなかったから」

ふたり一緒に体を起こす。
ベッドの上で、お見合いのように向き合う。恥ずかしくて顔をみられない。

「それも大丈夫」

「そうか。よかった」

慧さんは微笑む。

「一晩中スーツだったんなんて疲れたよね。また迷惑かけちゃってごめんなさい」

「甘えて欲しいと以前から言っているだろ? 俺は頼られてうれしかったよ」

そうなのかな。
面倒くさい女ではないだろうか。

日々の警護に送迎にプレゼントの品々。食事も買い物もホテルの宿泊もみんな慧さん頼りだ。
甘やかされすぎなのは、わたしが子供だからかもしれない。