初めこそ、お父さんもわたしのおかげで会社の業績が伸びたなんて喜んでいたけれど、毎日のように鳴る電話。大量の手紙。

大学や家の前で待ち伏せする人たちまで出始めて、家族や使用人もその対応に疲弊していった。

大学も、今まで普通に過ごせていたのに居心地が悪くなった。離れていった女友達もいれば、話しかけてくる男性も増えた。

講義中に盗撮され、それがまたインターネットにアップされる。大学内までモラルがない人がいるのだと知って愕然とした。

その日どこにいて誰と会って、買ったもの、食べたものが自分の知らないところで情報として広まっている。

そんなこんなでプライベートがなくなるような生活を半年ほど過ごしている。お父さんには申し訳ないが、原因となった雑誌の表紙は見るのも嫌になった。

騒ぎはすぐにおさまるかと思って、しばらく我慢したが、状況はどんどん悪化した。

雑誌発行から三カ月後、ついにストーカーが現れる。手紙の雰囲気から相手は男らしいが、性別以外何もわからない。

愛情か嫌がらせか見分けがつかないプレゼント攻撃に頭を悩ませる。誰に聞いたのか、わたしの電話番号を知っていた。大量の電話とメールに写真が送られてくる。

いつも見られている気がして部屋のカーテンを開けるのも怖くてたまらなくなった。

「はあ……」

カレンダーを眺め、ため息をつく。
ストーカーから逃げ回るだけで、貴重な春休みが終わってしまいそうだ。例年旅行の予定をいれていたのに、今年はほぼ家に引き籠もりだ。

新年度になれば大学が始まる。四年となれば講義はほとんどないものの、ゼミもあるし学校へはいかなくてはならない。

今日は本来ならば、大学入学当初からの親友、理央と出かける約束だった。送迎つきで遠方で遊ぶのなら大丈夫だろうと企画した。ふたりで映画を見ようと予定を立てていた。

理央もたくさん励ましてくれて、なんとか気分をあげて久しぶりの外出だったのに、昨夕、突然わたし宛に手紙が届いた。

差出人は記載なし。ストーカーからだ。中身は行こうと予定していた映画館のチケットだった。しかも、しっかりと理央と観たいと盛り上がったタイトルで、ふたり分用意されていた。

封筒には手紙も同封され
『映画楽しみにしているよ。愛している』
と書かれていた。

わたしは悲鳴を上げて手紙をゴミ箱に捨てた。

予定は家族と最低限の使用人しか知らない。理央はわたしの事情を知っているから、言いふらすわけなんてない。
予定は急遽キャンセルした。理央には申し訳なかったが、すぐに仕方ないよとわかってくれた。

デートで着るはずだったワンピースを眺めると、余計に気分が鬱々とした。
お母さんが今日の為に買ってくれた、パステルカラーの春らしいワンピースだった。

(なんでわたしがこんな目に……)

落ち込んでいると、部屋の内線が鳴る。
ドア横に掛けられた受話器を取った。

「はい」

『詩乃、応接室に来てくれないか』

お父さんからの呼び出しだった。