「うん……」

そうだ。普通のデートじゃないのに何をやっているんだろう。
自分に合わせてくれただなんて、そんなわけないのに。

「……一応デートだし、お洒落なほうがいいかななんて思ったけど、慧さんにとってこれは仕事だもんね。
釣り合うようにってそんなことばっかり考えてて。勘違いしていてほんと恥ずかしい……今日も普通に楽しんじゃって、浮かれすぎだよね。気を付けなくっちゃ」

いたたまれなさで顔を隠すと、すぐに手首を掴まれ阻止をされた。

なぜか慧さんも顔が赤い。

「ーーーー違う。違うんだ。
ごめん言い方を間違えた。ええと、俺は絶対に君を危ない目にあわせたくないんだ。だから自分を守る為にも、少しの間だけお洒落を我慢してほしい。ーーわかるね?」

「う、うん……」

「楽しんでくれないと悲しいよ。詩乃の気分転換っていう目的もあるんだから」

真剣な顔が目の前に迫った。
端から見たらきっと、いちゃついてるカップルにしか見えない。

緊張で、ロボットのようにカクカク頷く事しかできないわたしを、慧さんはふっと笑った。

「背伸びなどしなくても、君は十分魅力的だよ。俺のほうが釣り合わないんじゃないかって、申し訳ないくらいなんだから」

「ほんと……?」

「本当だよ。服装の件も、本音はかわいい詩乃を、他の男に見せたくないからだと言ったら信じてくれる?」

婚約者のフリというのは、ふたりきりの時でも継続して演じるものなのだろうか。これが大人の余裕ってやつなのかな。

甘いセリフに腰がくだけそうになった。