すると、蓮は履いたばかりの靴を脱いで梓の前に揃えた。



「俺の靴を履いて帰って。」

「えっ…。でも、私に靴を貸したら蓮はどうやって家に帰るの?」


「ロッカーに置きっ放しにしてある運動靴で帰るよ。だから、お前がその靴を使いな。」

「でも……。」



今は蓮の彼女でもないのに靴を借りるのは正直気が引けた。

でも、きっと私に何か出来ないかと考えた結果なのだろう。
昔と変わらない彼の優しさは、心の奥底へとじんわり浸透していく。



すると、紬は肩にかけている鞄に手を突っ込んでティッシュを取り出した。



「蓮くんの靴はサイズが大きくてブカブカだから、ティッシュを詰め込めば少し歩きやすくなるかもね。」

「……二人とも、ありがとう。」



二人の優しさが身に染みると涙が止まらなくなった。



蓮の靴はティッシュを詰め込んでもブカブカだった。
時につまずき、歩きにくく感じるのは、まるで今の私の人生を表しているかのよう。



こうして、蓮の計らいで靴を借りて帰宅する事に。
先日ジャージを借りたばかりなのに、今日は靴。
蓮には頭が上がらないほど感謝していた。






イケメンと付き合うリスクは理解していた。

蓮と付き合い始めてから、度重なる嫌がらせを受けて散々な目に遭っていたから。



だけど、それ以上の根気強い気持ちが私の恋心を燃え上がらせていた。
あの頃は、蓮を他の人に盗られまいとムキになっていたかもしれない。



でも、残念な事に別れた今でも嫌がらせは続いている。


だけど、蓮はあの時と変わらずに守ってくれるから、私の気持ちは持ち堪えているのかもしれない。



蓮が教室まで運動靴を取りに行ってる間に紬は言った。



「蓮くんって、本当に素敵。二人がまた付き合えたら私は嬉しいのに…。」



そう…。
蓮に浮気がなければ。

浮気さえなければ、今でもきっと…。