ーー最低気温が10度を下回り、朝晩が一段と肌寒くなってきた、11月上旬のある日。

学校で紬と一緒に帰宅しようとしていたが、後ろから勝手についてきた蓮が新たに加わり、三人で一緒に下駄箱へ向かった。



「ねぇねぇ、これからカラオケ行かない?」



蓮は相変わらずノー天気。
病気とは思えないほど、明るい表情を覗かせている。

だけど、無理をしている可能性もあるから反応に困る。



「いいね〜!ねぇ梓、一緒に行こうよ。」

「えーっ。疲れちゃったから今日は帰りたい。」

「断り方がババクセーな。本当は音痴だから行きたくないだけだろ。」


「……。」



どうして余計なひと言を加えるのかなぁ。



……とまぁ、こんな調子で会話をしながら、下駄箱に入っているローファーに指をかけた。


すると、指先で触れたローファーはいつもとは違う感触がした。
少し冷たくて湿っている。



もしやと思って、サッと手前に靴を引き出すと……。
ローファーは何故か水浸しに。
かかとからは、ポタポタと水が滴っていた。



「………。」



久しぶりの嫌がらせに言葉を失う。
蓮の彼女だった頃は、こんな悪質な嫌がらせなんてしょっちゅうだった。

蓮が把握していた嫌がらせなんて、ほんの一部に過ぎない。




でも、蓮がその現場に居合わせた時は一緒に解決してくれた。
泣いている私を抱きしめてくれて心を落ち着かせてくれたけど…。

蓮がいない時は、余計な迷惑をかけたくなくて黙って一人で泣く日が多かった。



別れてからなくなったと思った嫌がらせは、今でもまだ続いてる。
私は自分でも知らぬ間に誰かに妬まれている事を再び思い知らされた。



「ヤダっ、梓の靴から水が滴ってる!」



愕然としながら靴を見ていると、隣で気付いた紬が悲鳴混じりの声を上げる。

すると、紬の隣で靴を履き替えていた蓮も梓の異変に気付いた。