…それから、数分後。


梓はハァハァと息を切らして教室に戻ってきた。
片手で扉を支えて髪を垂らして、もう片方の手には一本のオレンジジュースをぶら下げていた。
肩が上下に揺れ動くほど息が荒い。



「え…、ジュースは俺の分だけ?お前のは?」

「ハァ…ハァ…。…っ…私は…いいから。」


「何で俺の為にジュースを買いに行ってくれたの?」

「ハァ…ハァ。蓮の喉が…乾いたら…困ると…思って…。」



そう言って、前屈みで軽く曲げた膝に手をつき、やや疲れ気味の右手でジュースを俺に差し出した。

何だかいつもと様子は違うと思っていたけど…。



ジーン…



俺は、付き合い始めてから全力で尽くしてくれた梓が好きだ。
だから、今も俺に喜んでもらう為にジュースを買いに行ってくれたのかもしれない。



ひょっとして、俺の気持ちが届いたのかな。
最近、心の距離を少しでも縮める為に努力したから、あいつなりに10パーセントの努力をしてくれたのかな。

少しは俺に気持ちが傾いてくれたんだよな…。

梓はやっぱりクソ可愛いな。



蓮はジュースを買ってきてくれた梓に感銘を受けると、今がよりを戻すチャンスと思った。



「梓……、そろそろ俺とよりを戻…」
「それはない。」



即答により、復縁への淡い期待は見事に打ち砕かれた。




一体、何なんだ。
じゃあ、何であんなに必死こいてジュースを買いに行ったんだよ。
一瞬でも期待させるなよ…。