一瞬にして背筋が凍った。


二人の関係がバレないように車で一時間もかけて遠方まで出向いたにも拘わらず、知り合いに目撃されてしまったのだから。




先生は顔を真っ青にしたまま後方へと振り返る。
隣の私は胸をドキドキさせながらパーカーのフードを深くかぶって顔を隠した。



すると、先生は…。

『大丈夫だよ』と言ったように、腕をチョンチョンと突いて合図を送る。



「あ~っ!やっぱり高梨先生じゃん。久しぶり〜!」

「横田~!久しぶりだね。元気にしてた?」


「元気元気。先生が転勤して行って以来だから…、2年ぶりくらい?」

「そうだなぁ…。横田はあの後希望していた大学に進学したの?」



女性の方へ振り向く事は出来なかったけど、話の下りからすると彼女は転勤前の教え子のよう。

同じ学校の生徒じゃないと判ると少し緊張が解けた。



「そ、無事に第一希望の青南大学に合格~!それより……さ、隣にいる子は先生の彼女?」

「彼女は僕の妹だよ。」



私に興味を湧かせる彼女に、先生はすかさずフォローする。



「本当は先生の教え子なんじゃないの〜?」

「違うよ。…ね、僕ら似てるでしょ?」



先生はそう言うと、敢えて顔を見せるよう私の頭を寄せた。

勿論、先生とは似ていない。
先生は彼女の目を掻い潜る為に敢えて平然とした態度をとった。

すると、彼女の表情が変わった。



「なぁ〜んだ。教師と生徒の恋愛だったら面白かったのに〜。」



先生は最後まで平静を装っていた。
嘘か本当か見分けがつかないくらいに。

だから、怖いとか不安とか。
感情がかき乱れる程には至らなかった。


彼女と話し終えてその場から離れると、先生は目を見合わせてクスリと笑った。



スリルとリスク。
この危険な駆け引きも、二人の親密度をより一層高めていた。