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「この前、体育館で梓を見かけたんだけど…。」

「えっ…、この前っていつ?」


「……あ、いや。何でもない。」



カフェで目の前に運ばれたばかりのコーヒーを一口飲んだ先生の表情は、何だか覇気がない。

元気がないのは今だけじゃない。
今日顔を合わせてからずっと溜息を連発している。



一方の高梨は、先日体育館で蓮のジャージを着た梓が蓮と一緒に歩いている姿を頭の中に思い浮かべていた。

だが、それを口にする事によって梓の記憶を呼び起こしてしまう恐れがあるから、敢えて触れなかった。





少し元気のない先生。
昨日私と連絡が取れなかったから寂しくてすねちゃったのかな?

まずは、心配かけた事を謝らないとね。



「先生、昨日はごめんなさい。丸一日連絡しなかったから随分心配したでしょ。スマホがなくて先生の連絡先がわからなかったから連絡のしようがなくて…。」

「スマホを無くしちゃったんだから仕方ないよ。でも、見つかって本当に良かったね。次は落とさないように注意しないとね。」


「でも…。」

「大丈夫、俺は梓を信じてる。」



先生は一日中寂しい思いをしてたのに、文句も言わずに柔らかい笑顔で私の髪をくしゃりと触った。

先生は、私がついた嘘を信じてる。
信用しきっている。



でも……。
私は先生を気遣う一方で、蓮の体調を心配していた。