ーーあれから、蓮の両親は会場に戻って来なかった。
お陰で今年も蓮と二人きりで三年連続三度目の花火大会となった。
夜空を彩る花火の柔らかい光に照らさる彼の横顔は、去年の花火大会よりも少し大人びて見えた。
花火大会が終わり、駅へと向かう人混みに紛れながら蓮の自宅に戻った。
すると、最後まで姿を現さなかった両親は、ビールを片手に家でのんびりと寛いでいる。
「ただいま〜。父さん、何で花火大会に来なかったの?」
「しょうがないだろ。会社から電話がかかってきたんだから。」
「母さんはどうして来なかったの?」
「あなた達を二人きりにしてあげようと思って。ウフフ…。」
母親は謎めいた笑みを浮かべる。
父親は壁掛け時計で時間を確認すると梓に言った。
「梓ちゃん、時間も遅いし危ないから今日はうちに泊まっていきなさい。」
私達が別れた事など知らないおじさんの言葉に悪意はない。
蓮と交際していた時は、小学生が友達の家にお泊まりするような感覚で、気軽に泊まらせてもらっていた。
勿論、一緒に寝るのは蓮じゃなくておばさんなんだけどね。
だけど、今や私は別の人の彼女。
蓮に無理矢理連れて来られたとは言え、ここに居るだけでも気が引けるのに、お泊まりなんて絶対あり得ない。
だから、素直に伝えた。
「…いえ、帰ります。おじさん、おばさん……。今日は私の為に気を遣ってくれたのに、ごめんなさい。」
「梓、遠慮しないで泊まってけよー。」
「蓮っっ!」
こうして、家を出た後にしぶしぶと駅まで見送ってくれた蓮と別れて、花火大会で混雑している電車に乗って数時間ぶりに帰宅した。