暗くても聞こえる…。
少なくとも私の耳には届いている。
私達二人が通り過ぎた後、うしろでキャーキャーと興奮気味に騒ぐ女子達の声が。
「いま通り過ぎた人、超イケメンじゃない?」
「芸能人じゃない?それとも、背が高いからモデルかなぁ。」
「ホントにカッコイイね。超タイプ。」
耳に届いてくる女子達の反応は、昔も今も変わらない。
花火大会が始まる直前で、若干テンションが上がっている今の方が女子達の声が耳にまとわりつく。
蓮は普段から騒がれ慣れてるせいか、特に気にも留めない。
昔は嫌だった。
私が蓮の隣を歩いてるだけで見下される目つき。
月とすっぽんなのは百も承知。
蓮の噂の隙間に挟まれた私への悪口。
蓮の隣から引っペがされて、手のひらと膝を擦りむいた事もあった。
でも、今の私には関係ない。
もう蓮の彼女じゃないし。
そうなんだけど。
わかっているんだけど…。
なんだろ。
蓮と行動を共にする劣等感と優越感。
背中合わせなこの気持ち。
最近感じてなかったな。
すると、蓮は突然足を止めて私の肩に手を添えた。
「あ〜、腹減った。屋台で何か買ってくるからここで待ってて。」
「私も一緒に行くよ。」
「屋台は混んでるし、人とぶつかって危ないからここに居て。但し、絶対ここを動くなよ。」
「あっ…、うん。」
と軽く頭を頷かせると、蓮は人混みの中に消えていった。
その直後、頭上に一発目の花火が打ち上げられて夜空に舞った。