蓮の自宅から花火大会の会場まで、徒歩10分。
そこには、数々の屋台がお互い張り合うように並び、会場に訪れているお客さんでごった返している。



蓮の両親と蓮…、そして私。
四人揃って会場に到着してから、およそ5分後の事だった。


それまでにこやかに会話していた蓮の母親が突然何かを思い出したかのように、サーッと顔を青ざめさせた。



「あらやだ!どうしましょ……。」

「お母さん、どうした?」


「お茶を飲もうとしてヤカンに火をつけたままだったわ。」

「お母さんはおっちょこちょいなんだから。……あっ…あれ、ない。」



蓮の父親はグレーのパンツのポケットを漁り、オロオロしている。
母親はすかさず聞いた。



「お父さん…、どうしたの?」

「どうやらスマホを家に忘れてきたようだ…。会社から連絡があるかもしれないのに。」


「もう、お父さんったら…。」



まるで茶番劇のようだが、焦ってる様子からしてわざとではないと判る。
蓮の両親は普段からどこか抜けてるから、特に驚きはしなかった。


父親は蓮の肩に手を置きこう伝えた。



「そろそろ打上花火の開始時刻だから、先に二人で見ていなさい。お父さん達は一度家に帰るから。」

「うん、わかった。後で連絡して。」



蓮が頭を頷かせてそう伝えると、両親は自宅へと戻って行った。



結局、今年も例年通り。
蓮と二人きりで花火を見る事に。