今朝、自宅から拉致されて蓮の家に連れてこられた私は今。
何故か彼の部屋で数学を勉強中。



テスト前でもないのに蓮に数学を教えてもらうとは…。
だけど、教え方が上手でとてもわかりやすい。
高梨先生が褒めていたのも納得するほど。





方程式を書き綴る筆圧からは、彼の容体が伝わってこない。
実は弱ってるところを私に見せたくなくて、元気に振舞ってるだけなのかもしれないけど…。

もしかしたら、病気の事を明かしたくないかもしれない。
でも、気になって仕方ないから意を決した。



「体調…、大丈夫なの?」

「え、体調…?あぁ…。昨日よりは良くなったよ。(おとといクラブで飲んだ酒が昨日まで残ってた事に気付いていたのかな?…二日酔いに気付くなんてすげぇ。)」


「………。」



昨日より良くなったって事は、やっぱりどこか悪いんだ。


さっき、『俺には時間がない』って言ってた。
蓮に残された時間はあとどれくらいしかないのかな。
この世からいなくなっちゃうの…?

半年前まではあんなに愛していたのに、もうこの世からいなくなっちゃうだなんて。
そんなの、嫌だよ………。




梓は蓮の容体が悪化して病院のベッドで横たわる姿を思い浮かべながら、数学のワークをこなしていく。
気持ちが不安定になっているせいか、時より目に涙が浮かぶ。


蓮は今にも泣き出しな梓の顔を覗き込んだ。



「梓…、大丈夫?体調悪い?」

「…ううん。」



梓は小声で首を横に振った。



蓮…。
あまり体調が良くないのに今は私の体調を心配をしているの?
私が蓮をフっちゃったから不治の病にかかっちゃったの…?


蓮に残された時間。
元カノの私は、交際以外に何をしてあげられるのだろうか…。