「………は?お前、何言ってんの?」



蓮はあっけらかんとしながら私を通り越して机へ向かい、机横の学生カバンから数学の教科書とワークを取り出して今にも逃げ出しそうな勢いの私の目の前にポンと置いた。



「数学のどこがわからないの?」

「…え?」


「わからないところがあるから授業が終わった後に高梨のところに聞きに行ってるんだろ。俺が数学を教えれば、わざわざあいつに聞かなくて済むし。」



蓮は次に筆箱を出して勉強する準備を始めた。



明らかに勉強モードに向かっている蓮。
若干言葉の行き違いを感じた梓は、確認の意味を込めて聞き返した。



「あ…あのぅ……。まさか、やるって…勉強の事?」

「それ以外に何があるんだよ。…まさか、お前っ…!」


「……っ!!」



蓮は一瞬で私の心を見透かし、目を見開いて驚いた。



蓮の話を遡っていくと、私は数学が苦手だから授業が終わりに高梨先生のところに行って、わからないところを聞いてたと思っていたらしい。


一方の私は、我慢に限界を超えた蓮がわざわざ家まで私を迎えに来て、チャンスが生まれた隙を狙って襲いかかろうとしていたのでは……と、残念過ぎるカン違いをしていた。


真実を知った瞬間、私の心は死んだ。