梓は蓮の自宅にくるりと背中を向けた。



「帰る…。」

「いや、まだ帰るな。」


「あんた……、自分が浮気をして捨てられたからって、今度は私を浮気させて先生と別れさせようとする魂胆なんでしょ。」

「……お前の妄想かなり深刻だな。」



手を振り払って逃げようとしている梓に対して、蓮は身体を揺らぶされながらも鍵穴を回そうとしている。



「そんなの無理無理!今すぐ手を離して。帰るから。」

「だから、ちげーって…。」


「離せっ…、エロ蓮。私はあんたと違って浮気なんてしない。」

「待て!勘違いするな。俺を何だと思っているんだ?」



…ん、俺を何だと思ってる?
真面目な表情で聞いてくるけど、答えは一つしかない。



「エロバカ狼でしょ。」

「…アホか!…ってか、俺の事をそんな風に思っていたのかよ。」


「よく考えて…。蓮が私を自宅に連れ込んで、襲わなかった日なんて一日もない。」

「落ち着け…。騒ぐなって。」



ヤバい……。
力では敵わない。
このままだと、強引に蓮の部屋に連れて行かれちゃう。

今は先生と付き合っているから、蓮の部屋なんて用がないのに。




二人は暫く玄関先でギャーギャー言い争っていたが、蓮は突然梓の耳を疑うような事を口にする。



「俺にはもう時間がないんだ………。」



蓮から衝撃的な一言が伝えられた瞬間、梓は振り払っていた腕をピタリと止めた。