蓮が私に頭を下げた日の翌日の、土曜日の午前9時半。
若干邪魔は入るものの、新しい恋が軌道に乗り順風満帆に過ごしていたのだが、この日を境に私の心は不協和音の一途を辿る事になる。
今日は先生と週一度のデートの日。
約束の時間は午前11時。
先生が迎えに来てくれるまでまだ時間がたっぷりあるから、のんびりとデートの支度をしていると、こんな早い時間に自宅のインターフォンが鳴った。
デートの連絡はメッセージアプリオンリーだから、先生がインターフォンを押すなどあり得ない。
気にも留めずに洗面所で髪の毛をコテで巻いていると、インターフォンに出た母親がリビングから私を呼んだ。
「梓〜。蓮くんが遊びに来たわよ。早く出てあげて。」
「えっ…。蓮が?」
一瞬耳を疑った。
今日、蓮とは約束はしてないんだけどなぁ。
朝から家に来るなんて、何か用があるのかな。
梓は蓮の予想外の訪問に首を傾げながらも、玄関付近で掃除機を持った母にすれ違いざまに言われた。
「蓮くんが来るの久しぶりね〜。最近蓮くんの姿を見なかったから、てっきりもう別れちゃったのかと思ってたわよ。ほら、早く行きなさい。」
「あ、うん…。」
母は蓮の事が大のお気に入りだった。
笑顔がかわいい上に愛想がいい。
更にうちは親子揃ってイケメン好き。
多分遺伝子が関係している。
母は蓮が自宅へ遊びに来る度に、蓮を見る目的で何度も部屋とキッチンを往復していた。