蓮がボーッとしながら過去を振り返っていると、奏は頭に何かを思い描いたかのようにフッと笑った。



「そんなに梓、梓ってさ…。梓のどこが魅力なの?…かわいい?それとも美人か?」

「あ、いや。…そうじゃなくて。」


「あー、やっぱり!お前もブスだと思っていたんだな~。」

「一発食らわそうか、…マジでっ!」



蓮は面白半分に冗談をかます奏にムカつき、拳を震わせた。



梓は俺に不満があったには違いないけど…。
実は俺にも不満があった。

その不満は未だに口にしていないし、心の中に封印したまま。





奏は注文していたビールをカウンターで受け取ってグイッと一口飲むと、精神的に追い詰められている蓮の気持ちを更に煽った。



「…最近、らしくないよ。このままじゃマジで高梨に持ってかれるよ。」

「ってか、もう持ってかれてるし。昨日二人が付き合ってるって知っただろ。」


「持ってかれるというのはそーゆー意味じゃない。」

「じゃあ、どーゆー意味?」


「高梨はもう27歳。梓の卒業を機に結婚でも考えてるんじゃない?」

「え、結婚って…、あの結婚?」


「そ。早くしないと、大事な梓は永遠にお前の元に戻って来なくなっちゃうよ。」



高梨は大人の男。
経済力がある。
生活力がある。
包容力がある。
そして、いま梓と付き合っている。


それに対して…


俺はガキ。
親に養ってもらっている。
将来がまだ見えてない。
もう梓にフラれている。
何度追い回しても振り返ってくれない。


計りにかける以前に今の時点でもう劣勢だし。