すると……。
蓮は両手で口元を覆って泣く梓の手を引き寄せて、力強く抱きしめた。



ガバッ……


「…………っ。」

「長げーよ。お前の心が迷子だった時間が。」



その言葉を聞いた時は既に蓮の腕の中。
身近で感じる、彼の香り……。



「おかえり…。長い寄り道はしたけど、ちゃんと俺んとこに帰って来たんだな。」

「蓮……。」


「お前は自分の悪い所を克服したんだな。気持ちを伝えない所がお前の欠点だった。」



私の気持ちを受け止めてくれた喜びと…。
彼が抱きしめてくれた喜び。
耳元で優しく囁かれているうちに、強張っていた身体の力が一気に抜けた。



「三年前みたいに、また顔が好きって言われたらどうしようかと思った。一緒に過ごした三年間で俺はお前に全てを賭けてたし、お前にも俺の全てを好きになって欲しかった。……それと、ごめんな。今さらだけど浮気をしてお前の事を苦しめてしまって。」



梓は無言で首を横に振る。



「お前が好きな気持ちには変わりないのに、お前から『好き』と一度も言ってもらえなかったから、先に俺の心が迷子になっていたかもしれない。」

「……。」


「お前に本気だった分、不安で悩んでたんだ。酒は記憶を奪うからホントに怖えな…。」

「ひょっとして…。蓮の悩みってその事だったの?」


「他の人から見るとちっぽけな悩みかもしれないけど、俺にはそのちっぽけな悩みが辛かった。」



人の心の中は覗けない。
自分では気付かないほど小さな問題だったとしても、相手には頭を悩ませてしまうほど大きな問題だったりもする。

でも、記憶がなくても浮気をした事実は変わらない。
浮気を許すかどうかは人それぞれ。



私も彼も完璧な人間ではない。

時には間違いを犯し、相手を傷付けてしまう事がこれから先も無いとは言いきれない。

だけど、ロクに話も聞かずに相手を一方的に責め続けるだけでは、いつまで経っても前には進めない。