中庭に集結している人混みをかき分けて、目の色を変えながら必死に蓮を探した。


左、正面、右、後ろ。


身体を時計方向に一回転させて、どの角度を隅々見ても彼の姿は視界に入って来ない。



嘘でしょ。
今日で高校生活最後なのに…。
もう二度と会えないの?


すると、蓮より先に別のクラスの友達と別れを惜しんでいる紬を発見。
不安でいっぱいの心を一旦落ちつかせるように軽く一息をついて紬に声をかけた。



「紬、蓮を見なかった?さっきまで近くで在校生に囲まれていたのは見ていたんだけど、目を離した隙に見当たらなくなっちゃって…。」

「大丈夫。蓮くんは黙って梓の前から居なくなったりはしないよ。」



気焦りして早口気味に話す梓に対して、紬は穏やかな口調で返答する。



「…あ、うん。そだね。今日は一度も蓮と話していないから、気持ち的に焦っちゃって。」

「ほら、今日で卒業なんだからもっとしっかりしないと!」


「蓮の事になると、つい我を失っちゃって…。」



紬は照れ笑いしている梓に優しく微笑むと、先程まで話していた友達の輪から外れて、梓の手を取って人が少ない場所へと連れ出した。