プルルルル…… プ… ガチャ



梓は電話が繋がったと同時に逸る気持ちを抑えながらゆっくり声を発した。



「…もしもし。蓮?」

『うん……。実は俺も今ちょうどお前に電話をかけようとしてたんだ。』


「あはは、電話に出るのがやけに早いなと思った。昔も同じような事があったよね。」



電話先で不機嫌な態度を取られたらどうしようって思っていたけど……。
蓮の声は怒っているどころか、突然電話をかけてきた私に驚いている。



私達は喧嘩をしたあの日以来の会話だね。
スピーカーから聞こえる声ですら、愛おしくて涙が出そうになるよ…。



「実は今日中に蓮に謝りたくて。…この前はゴメンなさい。蓮の気持ちも考えないでキツイ言い方をしちゃって……。」

『俺の方こそ…ゴメン。実は今日紬ちゃんから花音の話を聞いたんだ。あの時は、お前の気持ちも考えずに突っ走ってしまって悪かった。』


「ううん……。蓮は悪くない。だって、私を心配して言ってくれたんだから。」

『…それと、大和からも話を聞いたよ。バレンタインの翌日、体育館の用具室で男らに襲われそうになったって。』


「えっ!」

『大和は「梓なら大丈夫」って言ってたけど……。その話を聞いてからこの時間までずっと心配で………。』


「大和が助けに来てくれたから何もされずに済んだよ。……その後、教室に戻ったら蓮がレモン味の飴をくれたし。」

『バカだな…。俺がすぐ傍に居るのに、何ですぐに言わねぇの。』


「だって、あの時は受験期間中だったから、蓮に余計な迷惑をかけたくなかった。」

『今まで辛い想いをさせてゴメンな。』



蓮の声は心の安定剤。
不安な気持ちをかき消してくれる。

でも、声を聞くのは今日で最後かもしれないと思ったら、今度は悲しくなって身体が震え始めた。