「………ウソ…だろ。あいつの身は無事だったんだろうな。俺、梓からその話を聞いてねぇよ…。」
大和から聞かされたのは、バレンタインの翌日に俺への腹いせで梓が男に襲われかかった事。
衝撃的な事実に胸が引き裂かれそうになった。
『梓は大丈夫だから心配すんな。…けど、梓はお前は受験期間中だし傷付けたくないから、この件はお前に話すなって。』
「………俺、あいつの事本当に知らないんだな…。」
『くだらないケンカなんか止めて、いい加減守ってやれよ。お前はまだ梓が好きなんだろ?変なプライドとか捨てちまえよ。』
「…………。」
『俺はその場限りの自由恋愛を繰り返してきたけど、こんな俺ですらお前らの事が羨ましいと思ってたよ。その理由はなぁ、例えお前らが傍に居なかったとしても、常に心と心を通じ合わていたから。俺の中でお前らの恋愛は稀に見るほど最強だったんだよ。
……でも、今のお前は何?構えてるだけでちっとも動こうとしない。その間にも梓は嫌がらせと戦ってんのにさ。しかも、その嫌がらせの根本的な原因は一体誰だよ。
何もしようとしないお前を見てるとイライラしてくる。あいつの想いを放ったらかしにして何とも思わねぇの?いい加減目を覚ませよ。今のお前なんてちっとも羨ましくないからな!』
「………。」
『梓の嫌がらせと比べたら、お前の悩みなんてちっぽけな問題なんだよ!お前の想像以上にあいつは傷付いてるからな。少しは考えてやれよ!』
ブツッ……プーップーップーップーッ……
大和は感情的に怒鳴りながら言いたい事を言い終えると、一方的に電話を切った。
「何だよ…あいつ……。」
卒業式の予行練習後。
紬ちゃんから、決して本人から明かされる事のない梓の事情を教えてもらった。
それだけでもショックを受けたのに…。
大和から梓が精神的且つ身体的な被害に遭った事を聞いた瞬間、尋常じゃないほどパニックに陥った。