すると、このタイミングで鞄の中のスマホのバイブが作動した。
発信者は恐らく先ほど通話を一方的に切ってきた大和から。
梓は話に区切りがついたところを見計らって高梨に言った。
「…先生。」
「ん?」
「最後まで私を理解してくれてありがとう。」
「こちらこそありがとう。梓と付き合えて幸せだったよ。これからは、素晴らしい新生活を送ってね。」
「先生も私以上に幸せになってね。」
最後に先生と握手を交わしてから、その場を離れた。
先生は笑顔で見送り手を振る。
私も半年間愛してくれた先生の方に振り返って、大きく手を振り返した。
梓の姿が見えなくなってから、高梨は壁に背中をもたれかかって顔を見上げた。
『センセーはどう思ってるか知らねーけど…。俺はマジだから。』
『卒業までには絶対梓を返してもらうからな。』
高梨は負けん気な態度を見せつけてきた蓮を頭に思い描くと、思わず笑みが漏れた。
「ははっ……。あいつは誠意の塊だったな。俺も負けないくらい梓を大切にしていたつもりだったけど、あいつの想いには到底敵わないな。」
誰にも聞こえない声で小さくそう呟いた後、高梨は職員室へと戻って行った。