高梨は先に口を開いた。



「明日でいよいよ卒業だね。」

「…うん。先生とも、もうお別れだね。」


「寂しいな。教師や在校生はまだ残っているのに、三年生は未来へ旅立って行くんだから。」

「もーっ、そんな事言わないで。こっちだってまだ卒業したくないのに寂しくて泣いちゃうよ。」


「ハハッ…。梓は相変わらずなんだな。」



ひょっとしたら先生は気付いてないかもしれないけど、別れた今でも無意識に私の名前を呼び捨てに。
それとも、いま私と二人きりだからそう呼んでいるのかな。





生徒から絶大な人気を得ていた高梨先生は、別れてからも顔色一つ変えずに私を生徒の一員として接してくれた。


別れてから一ヶ月半。
先生とは、六ヶ月間交際していた。
体育館の用具室で密会を続けていた頃は、スリル満点な緊張感がとても新鮮だった。

…でも、そこには大きな代償が待ち受けていた。



交際していた六ヶ月間、先生は本当に私を大事にしてくれた。
気遣いを重ねてくれた上に、多くの理解を示してくれて……。

こんなワガママ彼女の私にだいぶ苦労したはず。



最近は蓮に振り回されっぱなしだったけど、先生と一緒にいるとやっぱり心が落ち着く。
それは昔も今も変わらない。

きっと、私を一人の人間として理解してくれたからだと思う。



最終的に蓮と高梨先生に大きな差がついたのは、私の愛情量。
蓮が深い愛情で包み込んでくれた分、私は彼を愛した。



『お前だけを一途に想い続けている俺にしとけよ………バーカ。』



結果、クリスマスの日に交わした蓮のキスが、先生との関係にピリオドを打った。
自分でも最終的に蓮の元へ戻るとは思っていなかったけど。



交際していた間は、蓮に恋路の邪魔をされて我慢の連続だった高梨先生。
二人きりで話すのは、今日で最後に…。