休憩時間は残りわずか。
奏は体育館に流れて行く生徒達の姿を瞳に映している。
「…どうしたらいいかわからない。口をきいてくれるかすらわからないし。」
「ウジウジすんな…。まずは仲直りしなって。その後の話はそれからだよ。」
「…でもね、さっきから蓮の姿が見当たらないよ。話そうと思って探しているのに。」
「話す方法ならいくらでもあるだろ。学校で話し合えなければ電話しろ。」
「…蓮が電話に出てくれるか分からないし。」
しょんぼりとして俯いて話す梓は、自信の二文字を失っていた。
「あのさぁ、さっきから何でそんなに弱気なの?」
「だってぇ…。明日は卒業式だよ?もう二度と会えなくなっちゃうのに、蓮とはすれ違ってばかりだし。」
「卒業前だし、いい加減電話くらい出るだろ。きちんとお互いが納得がいくまで話し合って。あいつが浮気をした時に、お前がちゃんと向き合わなかったからこういう結果になったんだろ?一方が怒るだけじゃ解決しないよ。」
奏はフッと微笑むと、梓の肩をポンポン叩いて壁から離れて体育館へと向かった。
奏の言う通り。
私は蓮の彼女だったのに、彼が何かに思い悩んでいた事すら気付かなかった。
浮気が許せなくて感情任せにして大事な事を見過ごしてしまっていた。
それは、浮気をした時だけじゃない。
先日喧嘩をした時も同じ。
蓮の気持ちを最後まで聞いてあげずに逃げてしまった。
私は最後のアドバイスをくれた奏の背中に向かって叫んだ。
「奏ーっ。」
私の大きな声が、体育館へ戻ろうとしている奏を振り返せる。
「何ー?」
「…卒業おめでとう。」
お世話になったお礼と今までの感謝の意味を込めて、最後は笑顔で締めくくった。
すると……。
「卒業おめでとう。頑張れよ。」
奏も私に右手を大きく振って、笑顔で応えてくれた。