ーーあれは、高校に入学してから1ヶ月が経とうとしていた、ある日の放課後。

つまり、今から二年前の一年生の春。



学校帰りに、机の横フックにかけていたお弁当箱を持ち忘れた事に気付いて焦って教室に取りに戻った。

すると、同じクラスの蓮は耳からイヤホンのコードをぶら下げてスマホから音楽を聴いていた。

窓へと寄りかかり、黄金色の夕陽を浴びながら外の景色を眺めている姿は、絵になってもおかしくないほどサマになっていた。



思わず胸がドキンと鳴った。
校内でアイドル的存在の蓮がいま目の前に。
しかも、一人きり。
邪魔する存在なんて、ここにはいない。


入学当初から蓮に一目惚れしていた私には、願っても無いチャンスだった。



「柊くん…、帰らないの?」

「…。」



後方扉から話しかけても、音楽の音量が大きいのか蓮は私の存在に気付かない。



「柊くん?」



私はそっと近付き、自分の存在を知らせるように蓮の腕に触れた。
蓮はそこで私の存在に気付く。

目と目が合った瞬間、鼓動はドキドキと高まっていき、顔はゆでダコ以上に赤くなった。



「……あれ、菊池。まだ居たの?」

「柊くん。私の名前…、知ってたんだ。」


「女子の名前は全員覚えたんだけどな。」



イヤホンを外し、冗談を交えながら私に笑いかける蓮。

毎日女子からキャーキャー騒がれている蓮がいま私の為だけに笑いかけている。
それだけでも嬉しくて倒れそうだった。


何故なら、平々凡々な私からすると、彼は遠く手の届かない存在に思えていたから。