蓮の体操着の香りをたっぷり吸い込むと、まるで胸の中に飛び込んだ時のように心地が良くて安心してしまったのか、流していた涙の勢いを失うほど、全身の力がスッと抜けた。



今日は蓮と交際していた時以上に辛い出来事の連続だったのに……。
こんなに小さな事で安心してしまう自分がバカみたい。


蓮の香りは好きという気持ちをより確信させる。



蓮は自分の席の脇にかけてあるリュックを手に取ってから、梓が座っている向かいの席の椅子にまたいで座ると、リュックの中から棒付きの飴を取り出して梓の前に突き出した。



「ほら。…このレモン味の飴。梓は前から好きだったでしょ。」



優しく微笑みながら顔を傾け、まるでこの飴を食べて元気を出してと言わんばかりに手渡す。



「ははっ…。小さい子どもじゃないのにな…。でも、ありがとう。」



本当は私好みの味じゃない。
大好きな蓮がくれた飴だったからこそ好きだった。

蓮がくれるレモン味の飴をいつも喜んで食べていたから、いつしかその味が好きだとカン違いしていたのだろう。



だけど、飴の事を覚えててくれたんだ。
今でも私に渡す為に持ち歩いてたのかな。






私……。
やっぱり、蓮じゃなきゃダメ。
卒業を機にお別れなんて出来ない。

この先もずっとずっと彼女でいたい。
離れたくないよ…。