蓮は近くの椅子を引き出して梓を座らせた。




私がまだ蓮の彼女だった頃…。
嫌がらせを受けて悔し泣きしていると、蓮は優しく私を抱きしめてくれた。
それだけで魔法がかけられてしまったかのように、不思議と落ち着きを取り戻せていた。



だけど、泣いていても抱きしめてくれないこの距離感が、今の私達の関係。

彼は友達としてそっと見守るだけ。
だから、胸がキューッと締め付けられる。



「あれ…、ねぇな。」



蓮はスラックスの両ポケットをガサゴソと探り、ハンカチがポケットから見つからないと、次は自分のロッカーへと向かった。



「ごめん、今ハンカチとか持ってないから。」



蓮がロッカーから取り出してきたのは、自分の体操着。
この体操着をハンカチ代わりにして、泣いている梓の頬に涙を染み込ませるように、ポンポンと拭き取った。



「辛い事…、あったんだな。」



梓は心配の目をを向ける蓮から体操着を受け取った。



蓮の香りがたっぷり染み込んだ体操着。
私は体操着の中に顔をうずめた。