ーー同日の放課後。

トイレから一人で戻って来ると、すれちがいざまに他のクラスの男子から引き止められた。



「おー、菊池。さっき、柊から菊池に体育館の用具室に来るように伝えてって頼まれたよ。」

「…え?蓮が?」


「早く来るようにって。何か大事な話があるとか。」

「…うん。わざわざありがとう。」



蓮が他のクラスの男子に伝達をするなんておかしいなと思って、教室内を覗き込んでキョロキョロと見回しながら蓮を探した。

だけど、蓮は教室にはいなかったので、てっきり本当に用具室に私を呼んだんだと思い込んでしまった。



大事な話って何だろう……。



その時は、蓮が私を呼んだ理由をあまり深く考えずに、軽い気持ちで体育館の用具室へと向かった。






梓は誰も居ない体育館に足を踏み入れて、用具室の前に立つ。
ここは、高梨との密会でよく使っていた思い出深い場所であるし、高梨との交際が蓮に発覚してしまったのもこの場所だ。


梓は扉に手をかけて用具室の中に入ると、懐かしい香りが漂ってきた。
だが、用具室の中には人の気配がない。



「蓮?」



梓は薄暗い用具室の奥へと進み、一歩一歩ゆっくり足を踏みしめながら、室内の隅々に視線を当てたが、蓮の姿は一向に見当たらない。


すると……。


ガチャ……



梓の背後から扉の鍵のかかる音が耳に入った。