梓はめっきりひと気の少ない理科室前に向かう途中、廊下ですれ違いざまに大和と激しく衝突。
ぶつかった衝撃で、梓の軽い身体が宙へと吹っ飛んだ。
「いてて…。ったく、誰だよ……。」
大和は尻もちをつき、腰を押さえながらぶつかってきた相手に目を向けると……。
そこには、床に両手と両膝をつけて倒れている梓の姿があった。
乱れた髪で顔が隠れているので表情は伺えない。
「…………。」
「……えっ?梓?」
大和はゆっくりと立ち上がりながら涙を拭っている梓を見ると、普段と違う様子に気付く。
だが、梓は何も言葉を発する事なく、そのまま立ち上がり理科室の方向へ向かった。
「おい、待てよ。」
大和は大声で梓を引きとめようとした直後、後ろから息を切らしながら走ってきた紬に気付き、すれ違いざまに紬の腕を掴んで引き止めた。
「紬……。一体、梓に何があったの?何か様子が変だけど。」
「ハァッ……ハァッ……っ。大和くん…。」
後を追ってきた紬の顔も、涙でグシャグシャになっている。
大和は興奮している紬を一旦落ち着かせようと思い、ひと気が少ない四階の踊り場へと連れて行った。
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「…ハァッ……ハァッ……ハァッ…。」
梓は教室を出てから紬を振り切った後、誰も居ない理科室前に到着。
流れ出る熱い涙。
熱を帯びてる赤い鼻。
乱れた荒呼吸を一旦整える為に、胸に握りこぶしを当てて大きく深呼吸をする。
「フーッ……フーッ……。」
再び負の洗礼を受けたけど、卒業まであと少しの時間を一人で耐えきらなければならない。
正直、もう誰にも迷惑をかけたくない。
梓はその場にストンと身体を落として地べたに座り込むと、墨臭いジャージの中に顔をうずめて声をかき消しながら泣き崩れた。