紬と一緒に教室に入って、ふと自分の机に目をやると……。
そこには、楽しい気分を一瞬で覆すほどの驚愕的な光景が待ち受けていた。




私の机の上には墨汁が撒き散らされたジャージが無様な姿で置かれている。
目を覆いたくなるほど無残な現実に言葉を失った。



「梓っ……。」

「…………。」



未だにこんな残酷な仕打ちをしてくる人が居ると思うだけで悲しい。



「こんな卑劣なやり方しか出来ないなんて最低…。梓、もう黙ってないで先生に言いに行こう。私これ以上我慢できない。」



紬はしびれを切らして梓の腕をグイッと引っ張って職員室へ連れて行こうとしたが……。
梓は紬の手をスッと解いた。



「…いいの。あと少しで卒業だし、嫌がらせくらいで最後の高校生活に波風立てたくないから。」

「でも、この問題を放ったらかしにすると、梓一人だけが損をするよ?せめて犯人を探さないと…。」


「きっと、昨日蓮が私のチョコを食べている姿を見た人が、気に食わなくてやっただけかもしれないし…。」

「だったら余計だよ。沈黙を続ける必要がない。」


「それより、蓮が登校する前までにジャージを片付けなきゃね。また心配かけちゃうから。」

「……バカだよ、梓は。」



再び繰り返される嫌がらせ。
犯人はきっと私の心の痛みなんて知らぬまま、何食わぬ顔をして過ごしているだろう。

被害者の私の気持ちを一度たりとも考えた事があるのだろうか。




梓は鞄を机のフックにかけて墨汁臭いジャージを手に取る。

しかし、墨汁の香りが鼻に漂ってきた瞬間……。
心の中で何かが弾けた。