ーーピンクの梅の花が、あと残り僅かとなった学生生活の花道を彩っている、バレンタインの翌日。

駅からの登校中、紬は前に歩いている梓に気付いて後ろから駆け寄って声をかけた。



「梓、おはよー。」

「あ、おはよー。昨日は大和にチョコ渡せた?」



梓はそう言って振り返ると、紬と歩調を合わせた。
紬は学生鞄を肩にかけ直してため息混じりに言った。



「…うん。チョコを渡しに行ったんだけど、大和くんの前には人が群がってて。順番があるからって、一列に並ばされちゃったよ。」

「紬を列に並ばせるって、あいつどーゆー神経してるの。」


「渡しに行った時間が悪かったのかな。本当は二人きりの時にそっと渡したかったんだけど。…でも、渡せただけでも満足してるから。」



そう言って苦笑いする紬。
きっと煮え切らない感があるはず。

でも、チョコを受け取るだけでも女子達を一列に並ばせるなんて、面倒臭がり屋の大和らしいと言えば大和らしいけど…。



「…梓は?蓮くんにチョコを渡せた?」

「うん。その場で食べてくれたよ。」


「どう?復縁出来そう?」

「ううん…。まだ私の答えが見つかっていないから。」


「もうすぐでお別れなのにね…。蓮くんは梓がいなくても、変わらずに過ごしていけるのかな。」

「どうだろうね…。蓮は大学に入学して新しくやり直していきたいとも言っていたから…。」


「梓は平気?」

「辛いよ。卒業を機に蓮と会えなくなっちゃうから…。」



卒業式まで残り二週間。
その二週間の間に、自分の答えに辿り着きたい。


だけど、来週はいよいよ本命学科の入試がある。
蓮の事ばかり考えてはいられない現実がのしかかっている。



私はこの二週間で恋愛と受験に王手をかけなければいけなくなり、切羽詰まった心は窮地に追い込まれていた。