梓は多数のチョコの中に紛れた自分のチョコが入った箱を発見。
嬉しくて思わず笑みが溢れる。
「あっ、あった!私のチョコ見つかったよ。」
「早くちょーだい。」
だが、取り出したばかりの箱は、他の箱に押し潰されてしまっていたせいかところどころ凹んでいた。
紬とあれこれ相談しながら選んだ箱。
蓮がこの箱を開けてくれるのを何度イメージした事だろうか…。
梓はショックで笑顔が消えつつも、右隣に座る蓮に片手でヒョイとチョコを渡した。
「はい…。」
「…ちょっと待て。プリントを後ろの人に配るような感覚で素っ気なくチョコを渡すなよ。バレンタインなんだから、ちょっとは恥じらうとか、気持ちを込めながら渡したりするのが普通だろ。」
「だって箱が…。ここんとこ潰れちゃったよ。」
「そんなちっぽけなこと気にすんな。大事なのは中身だろ。人間と一緒!」
「うん……。」
「…でもさぁ。俺、知らぬ間にお前のチョコを受け取ってたんだな。きっとお前からチョコを受け取る運命だったんだよね。」
蓮はそう言ってクッと笑い、受け取ったばかりの箱からリボンを解いて膝の上で中を開いた。
「お!ブラウニーじゃん。旨そう。」
「えへへ……。」
「一緒に食おう。口開けてぇ。」
「自分が作ったものだから蓮が先に食べてよ。」
「どっちが先に食べても一緒。ほら!」
蓮はブラウニーを指でつまみ、ムクれている梓の口元まで持って行く。
思わず動作が停止した梓は食べる以外選択肢がなくなり、自身の手作りのブラウニーを渋々と食べた。
蓮は砕けた笑みを浮かべると、2個目のブラウニーをヒョイと自分の口の中に放り込む。