梓は鞄の中のチョコが見当たらずにショボンとした。



「あ…あはは。家からちゃんと持ってきたはずなんだけど…、チョコがなくなっちゃった。ひょっとしたら、人のチョコを盗んだ罰として誰かに盗まれちゃったのかも…。」

「は?よく考えてみろ。お前以外にチョコを盗む奴はいねぇだろ…。あと30秒以内に出さないと受け取らねーから。30…29…28…。」


「もーっ、イジワル!……あ、もしかして、今朝チョコが床に散らばった時に他のチョコと一緒に紛れ込んじゃったかも。ちょっと蓮のリュックの中を見てくれる?」

「どれどれ…。」



蓮は身体を前屈みにして足元に置いてあるリュックのファスナーを開けた。
梓は隣からリュックの中を一緒に覗き込む。



すると、蓮のリュックの中は下駄箱や机から盗んだ数以上に、箱やラッピング袋が増えていた。
きっと、休み時間の度に呼び出されて受け取った分のチョコも含まれているはず。



「お前のはどれ?」

「こんなに大量にあったらすぐ見つからないよ。……ほら、リュックを貸してごらん。」



梓は蓮のリュックを膝に乗せて、手でササっと中身を漁るが、同じようなラッピングのものが多過ぎて、自分のチョコがパッと見当たらない。


リュックの中にぎっしりと詰まっているチョコの数が、蓮に想いを寄せるライバルの数。
もしかしたら、勇気がなくて中にはチョコを渡せなかった人がいたかもしれない。



梓は膝にリュックの重みを感じるなり、改めて蓮の人気度を痛感した。