ーー今日はバレンタイン。

一昨日、紬と一緒にバレンタインの材料を買いに行って、昨日ブラウニーを作った。

受験勉強にチョコ作りと、昨日は目が回りそうなほど忙しかったけど、蓮にどうしてもチョコを渡したいと思っていた。

三年連続の熱い想いは、果たして受け取ってもらえるのだろうか。



今日という日が彼にとってどんな日なのかは、元カノの私にはよくわかっている。


一昨年も去年も、私という彼女の存在が居ても関係なかった。
寧ろ、相手が私だから簡単に奪えるとでも思ったのだろう。





通学路を歩く女子達の鞄の中には、蓮へ渡すはずのチョコが入っているだろう。
右に左と、女子達の鞄に次々と視線を移していく私は完全に不審者だ。



蓮を失った今は、恋に生きる女。



いつもより早めに登校し、蓮の下駄箱の扉開けると…。
先に詰み重なっていた大量のチョコレートが、雪崩のようにドサドサと下駄箱から降ってきた。


赤、ベージュ、白、ピンク…。
色形様々なラッピングをされているチョコレートを目でざっと数えても15個以上。
今年はシングルだからか、去年以上に競争率が高い。



梓は床に散らばったチョコの前で、うっすらと不敵な笑みを浮かべながら心の中から語りかけた。



チョコさん…。
あのね。
君たちには大変申し訳ないだけど、蓮の鞄の中には入れない運命なんだよ。



梓は付近に蓮がいない事を確認してから床に散らばったチョコをゴッソリと回収し、鞄の中にギュウギュウと詰め込んだ。

目の色を変えながら蓮宛のチョコをかき集める姿は虚しいが、私も蓮を他の女に取られまいと必死だ。