ーー下校時刻を迎え、梓と紬が昇降口に向かっている最中、紬はふと思い出したかのように勢いよく鞄のファスナーを開けて中を手探りした。



「あー、どうしよう…。教室に財布を忘れて来ちゃったかもしれない。…悪いんだけど、取りに行ってくるから先に歩いててくれる?」

「一緒に行こうか?」


「ううん。梓の時間を無駄にさせたくないし、後からすぐ追いつくから。」

「じゃあ、先に行ってるね。」



バレンタインを二日後に控え、紬は大和に…。
そして、私は蓮に手作りチョコを渡す為に、一緒にチョコレートの材料とラッピングを買いに行く約束をしていた。



一旦紬と別れ、下駄箱で靴を履き替えようとして、いつものように自分の靴箱から靴を取り出して床に置くと……。
一瞬、靴の中から何かがキラリと光った。

光る物を確認しようと思って靴に指をかけ、裏っ返しにして床に叩きつけた。



コツンコツン…

カラカラカラーン……



靴を叩きつける音と共に金色の物体の高い音が交わると、その物体が何重の輪を描くように靴の外へと飛び出して行った。

目で追っていくと、その何かは金色の画鋲という事が判明。



「はぁ…。またか……。」



度重なる嫌がらせに、思わずため息が漏れた。


一向に止まない嫌がらせ。
靴の中に画鋲が入っているパターンは割とソフトな方。
そう思う時点で、人より感覚が麻痺していた。



床に散乱した画鋲の数を一つ一つ数えながら拾い上げて、手の平の上に乗せていく。



…14…15…16……。



梓は無表情のままシンプルに画鋲の数をかぞえていた。