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「お前、梓の事どーすんの。」



ーー口から溢れる息も凍りつきそうなほど冷たい風が身体に吹きつける、二月上旬の帰宅中。

顔が半分くらい隠れるようにぐるりと厚手のマフラーを巻いている受験シーズン真っ只中の俺に、奏は心配して聞いてきた。

奏は昨年末にWEBデザインの専門学校に入学が決まっているから、気持ち的に余裕がある。



「俺からは別にどうもしねーけど。」

「おーおー、冷たいねぇ。もう梓を諦めたんだっけ?」



最近、奏も大和も「梓、梓」…って。
今は受験の事で頭がいっぱいなのに、二人は俺の心に追い打ちをかけてくる。



「お前にあいつの話をしたら、どうせ本人に筒抜けだろ?」

「しねぇよ。…でも、梓の嫌がらせはすげぇな。原因はお前なんだろ?」


「……何で嫌がらせの事を?」

「俺、この前梓が嫌がらせを受けた直後を見ちゃったんだよね。誰かからジャージに泥を投げつけられたとか。」



梓のジャージに泥?
なんだよ、ソレ。
あいつは、まだそんなに酷い嫌がらせをされてんのかよ。



「…そう言えば、あいつの髪に泥がついてた日があった。下駄箱で梓の上履きが校庭に捨てられていたのを見た時は、こっそり元に戻しておいたけど…。」

「あいつ、不憫だよな。お前と別れてても嫌がらせが残っているし。」



別れる前も、別れてからも…。
梓は嫌がらせを受けた事を自分の口から報告しない。
人に迷惑かけまいと我慢してしまう。

だから、こっちが気付いてやらなきゃいけないのに…。


でも、今は一定の距離を置いてるから、いじめの実態を把握する事が出来ない。