「梓…。俺と………いや、まだダメだ。」
一瞬理性を失った蓮は、頭をブンブン横に振って必死に何かと戦っていた。
クルリと背中を向けると、独り言をブツブツ言い出す。
『まだダメ』の【まだ】って、一体どーゆー意味なんだろう。
そう考えながらパーカーに袖を通していたけど、耳にうっすらと念仏のような独り言が飛び込んできた。
「………しっかりしろ。目を覚ませ。…頑張れ、俺。あんなの全然大した身体じゃないだろ。貧素な胸に負けるな、俺!」
独り言が気になって耳を凝らしながらよく聞いてみると、理性と戦ってると同時に念仏に紛れて私の悪口を言っていた。
梓は怒りでワナワナと身を震わせながら、今にも殴りかかりそうな腕をグッと堪えて蓮の背後に立った。
「なんですって……。」
「いっ……。」
「全然大した身体じゃない?貧素な胸??………ふーん。いつも私の身体をそんな風に思ってたんだ。それとも、私の聞き間違いかしら。」
「あっ…えっ……。やべっ……。(ギクッ…)」
「許せない!もー、寝るからこの部屋から出てってよ!」
「待て、ここは俺の部屋だぞ…。」
「うるさいっ!お前が出てけっ…。」
梓はすっかり拗ねてしまい、部屋に入って来た状態のままの蓮を部屋から追い出した。
イライラしながらも、ベッドの布団になだれ込むように枕に頭を落とす。
久しぶりに横になったベッドからは、蓮の香りが漂ってくる。
はぁ……。
私がこの家に来た理由は、蓮の心を奪いに来ただけなのに。
貧相な胸なんて言われると思わなかった。