キンモクセイの香りが街に漂い始めた、10月の中旬。

先生一筋だった私の心に小さな変化を齎す事件が起こった。




梓と紬は5時間目の体育の授業に向けて昼休み中に更衣室へ移動し、着替え終えてから体育館へ向かうと……。



プシューッ……



突然、横から噴水のように噴き出してきた水が梓のジャージの上着を直撃すると、あっという間にずぶ濡れに…。


梓は水が飛んできた方向に目を向けると、その先の体育館手前の水道には花音の姿が。

花音は水道のハンドルを最大限に捻って勢いよく流れ出る蛇口を指で半分塞ぎ、梓が居る方向を目掛けていた。




花音は梓の上着がずぶ濡れになったところを確認すると、ハンドルを捻り返して水を止めた。

色が変色してしまうほど濡れたジャージからは、水がポタポタと滴っている。



「あっはっはっは~。ごめーん、水かかっちゃったぁ?なんかさぁ、水の出が悪くていじっていたら、急に吹き出して来ちゃってぇ。」



花音の瞳は反省どころか嘲笑っている。
ふざけた口調からして明らかに私を狙っていたと思われる。





こんな低レベルな嫌がらせは今日が初めてじゃない。
花音は、私が蓮と付き合ってる頃から度重なるストレスを与えてきた。



キーン コーン カーン コーン



「あ~っ、予鈴だ。もう体育館に行かなきゃ。」



花音は嫌がらせに満足すると、軽やかな足取りで体育館へと向かって行った。


ビショビショになったままその場に取り残された梓は、意に沿わない出来事に言葉を失う。