梓と紬は暗い顔をして教室へ向かっていると、昇降口から階段に曲がる道へ差し掛かった時、たまたま奏とバッタリ遭遇。


奏は神妙な面持ちで手をつないでいる梓達に気付くと同時に、梓の顔とジャージに泥が付着している事にも気付いた。



奏「どうしたの顔に泥なんて付けちゃって。うわっ…、ジャージまでスゲーな。お前、誰かに命狙われてんの?」

紬「奏くん…。悪いけど、今ちょっと冗談には付き合えない。」

梓「こんなの蓮と付き合ってから、毎週のようだよ。」



梓は指先を軽く握り、俯いたまま泣き出しそうな声で伝える。



奏「マジか。すげーな。毎週のように被害に遭ってるのに、休まずに登校しているなんて。…俺なら迷わず登校拒否かも。」

梓「じゃあ、奏が私の立場だったら自殺クラスかもね。」



奏「…嫌がらせは蓮が関係してるの?そんなに嫌がらせがヒドイの?」

梓「ヒドイを通り越して呆れちゃうよ。もう慣れてはいるんだけど…。」



奏「あいつは梓がこんな目に遭ってる事を知ってるの?」

梓「蓮が把握してるのは、実際に受けている嫌がらせの半分くらいかな…。」

紬「蓮くんは自分の目で見た分しか知らないはずだよ…。」



奏「蓮はお前の傍にいないのに、まだ嫌がらせを受け続けるなんて辛いな。」

梓「でも、卒業まであと少しの辛抱だから…。」



正直、嫌がらせは本当にキツい。
何で自分だけこんな目に遭わなきゃいけないんだって、何度も何度も思っている。

しかも、嫌がらせの原因元となっている当事者の蓮ですら、今は味方ではない。



奏「まだ我慢するつもり?大和から聞いたけど、最近高梨と別れたんだってな。だとすると、今のお前は何を支えに嫌がらせと戦ってるの?」

梓「…わかんない。」



奏「不憫だね……。変な意地ばっか張ってないで、つべこべ言わずに早く蓮の元に戻ればいいのに。」

梓「蓮にフラれたのに?」



奏「…あれ?蓮にフラれたんだっけ?ダセェなー。」

梓「………。」

紬「…奏くん。悪いんだけど、私達教室に戻らないと、体育の授業に間に合わなくなっちゃうから…。ごめんね。」



奏「あっ…、あぁ。」

梓「もう行くね。」



こうして、奏にも嫌がらせの実態を知られてしまった。



最初は小さな火種だったけど、いつしか大きな災いへ。
蓮のファンはネチっこい。
別れた噂が落ち着いてもこのザマだ。
鬱憤を晴らすには私が絶好のターゲットなのかな。


でも、あと約二カ月我慢すれいい。
たった二カ月我慢すれば、大学での新生活が待っている。




ーー蓮が支えになっていない今。
私の心の支えとなっているのは、親友の紬だ。