『はい、どちら様ですか?』

「…あっ、あのっ。私、梓です。」


『あら、梓ちゃん。いらっしゃい。いま扉を開けるから、ちょっと待ってね。』



玄関先で数秒待つと、おばさんは愛犬のキャラメルを連れて玄関にやってきた。



「今日はどうしたの?蓮と約束していたの?」

「…あっ、いいえ…。蓮くんは帰って来ましたか?」


「あの子は帰って来たんだけど、すぐ塾に行っちゃって…。せっかく来てくれたのにごめんね。」

「いえ、いいんです…。勝手に来ただけですから…。」



梓は期待が外れてしゅんと肩を落としていると、暗い表情に気付いた母親は何かに気付いた様子で梓の腕を引っ張った。



「忙しくなければうちに上がって。蓮の部屋を使っていいから、受験勉強して帰りを待つのはどう?」

「…でも。」


「今日はそんなに遅くはならないはずだから。遅くなるようなら帰りは車で送ってあげるから遠慮しないで上がって。」

「すみません。じゃあ、お言葉に甘えて…。」



私はおばさんのご好意で家に上がらせてもらい、彼の部屋で帰宅を待つ事になった。



ここに居れば確実に蓮に会える。
さすがの蓮も、二人きりなら会話くらいはしてくれるよね。