「…ここ最近、ずっと考えていたんだけど、校長室の一件からお互い歯車が噛み合わなくなっていったのかもしれない。」

「……。」


「俺は梓が嫌がらせを受けてると知らされても、梓から話を聞き出そうとしていただけで、結局一度も手を貸してあげなかった。…教師なのにヒドイ話だろ。」

「そんな事ないっ。私がちゃんと話さなかった事が原因だから……。」


「梓が辛い想いを抱えている事に気付いてたのに、何もしてやれない自分が情けなくてね。彼女一人すら守れない男なんて最低だろ。」



先生…。
違うよ。

嫌がらせの件は私が勝手に黙っていただけだから、先生は全然悪くない。


それに、先生は情けなくなんてない。
私の気持ちを優先するばかりに、長々と待ちぼうけを食らっていただけ。


春に蓮と別れて教室で一人泣いていた私に気付いてくれた時も、先生は泣いてる理由を問い詰めずに寄り添ってくれた。
先生の器の大きさに心が惹かれていったんだよ。

情けないのは先生じゃなくて、私なんだよ…。





話を黙って聞いていた梓の瞳からは、大粒の涙がポロポロとこぼれ落ちた。

梓を責めるどころか自分を戒めている高梨の話に、梓は押し寄せる罪悪感と戦えなくなってしまう。