「梓は学校で誰かから嫌がらせを受けてるんだってね。それをどうして相談しないの?」
「……何処でそれを。」
「二人にとっても大事な事なのに、どうして一番に話さないんだ。………俺は、梓の何の力になってる?これじゃあ、恋人以前に教師としても失格じゃないかな。」
「ごめんなさい……。遼くんに迷惑かけたくなくて。」
何処から情報が漏れたのかわからない。
いずれにせよ、嫌がらせの根本的な原因は蓮にあるから言えるはずがない。
仮にもしそれを明かしたとしても、関係が疑われている間柄上、先生に出来る事は限られてしまうだろう。
「黙っているだけじゃ思いが伝わらない。口にしたら気持ちが楽になる事もある。相手に伝えなきゃいけない話を怠わったり、気を遣い過ぎて一人で塞ぎ込んだり。…そこが梓の悪い所だよ。」
「…うん。今後は気を付けるね。…それじゃあ、私も遼くんに質問したい事があるから聞いてもいい?」
「遠慮せずに言って。何でも聞くから。」
「校長室で、遼くんが教室には二人きりじゃないと言った後、教頭先生に私達以外に誰が居たかという質問を持ちかけられた時に、どうして第三者の名前を挙げなかったの?嘘でもいいからすぐに答えれば良かったのに。」
心の中に留まっていた事を初めて口にした。
あの時、先生が第三者の名前を即答してくれれば、私の恋心が一度立ち止まる事はなかったかもしれない。
あの瞬間は精神的に追い込まれていたから、一刻でも早く温かい衣に包まれたかった。