どうしよう……。

自分を愛してくれている先生に、いきなり別れたいだなんて。
しかも、別れたい原因が蓮の事が好きだからって。


やっぱり、私には言えない。



先生の優しさに触れた瞬間、今日までの思い出が蘇った。


秘密のメモを送って胸をドキドキさせながら密会したり。
いつも可愛くいて欲しいからと言って服を買ってくれたり。
蓮にヤキモチを妬いたり。
一緒に校長室に呼ばれて関係を疑われたり。
一ヶ月前からサーカスのチケットを用意してくれたり。
私の嘘をバカみたいに信じていたり。
特別な日に美味しいものをご馳走してくれたり……。


先生とはたった半年間の交際だけど、思い出は両手では抱えきれないくらい沢山詰まっている。



勿論、気持ちは一つに固まっている。
でも、先生を傷付けてまで身勝手な気持ちを押し進めてもいいのかわからなくなった。

交際した男性は蓮しかいないから、当然別れ方も一つしか知らない。




先生は、『ちょっと待ってて』と言って車から降りて自動販売機で暖かいコーヒーを買ってつめたく冷え切った私の手に握らせた。



「今日は口数が少ないけど、何かあったの?」

「…ううん。何でもない。」



今ここで先生と別れたとしても、来週を迎えればまた学校で顔を合わせる事になる。

だから、余計慎重に考えていた。