だけど、梓は諦められきれない。
廊下を行き交う通行人に目が入らないほど感情的になっていた。



「蓮!待ってよ……蓮………。」



結局、蓮は一度も振り返らなかった。
彼の名前を呼び続ける私の声だけが廊下に響き渡っている。




遠ざかる彼の背中を見ているうちに虚しくなって次々と涙が溢れてきた。
手で顔を覆っていても、周囲の人達が自分に注目してるのがわかる。

だけど、私は周りの状況なんて気にならないほど蓮との決別に胸を痛めていた。





いきなり『俺の事なんて忘れろ』なんて言われても、頭の中が整理が出来ない。





でも……。
本当はこれで良かったのかもしれない。

高梨先生と交際を続けていくのなら、蓮と距離を置くのが正解だよね。



ただ、少し巻き戻しをするだけ。
蓮の浮気が発覚して別れたあの頃に戻るだけ…。
友達以下の関係に戻るだけ。



まるでお経を唱えるかのように、頭の中で何度も言い聞かせているのに。
蓮の言葉や気持ちを理解しようと思っているのに…。


どうして心は騙されてくれないんだろう。