だが、梓は今自分が置かれている状況を思い返すと、ふと我に返ったかのように蓮の身体をドンッと力強く突き放した。



「こんな事しないで……。」

「梓……。」


「調子いい事ばかり言い並べないでよ。蓮と別れたあの日から、私達は別々の道を歩んでるんだよ。蓮が私の事を想っていてくれても、私は蓮の事なんてこれっぽっちも思ってないんだから…。」



自分でもビックリするほど声が震えていた。
高梨先生の恋人としては正論なのに、何故か無性に胸が締め付けられている。



「俺の事、これっぽっちも思ってないって。……本当にそう思ってる?」



蓮は寂しげな瞳で問うが、梓は顔を向ける事が出来ない。



「思ってるよ…。」



…また、嘘をついた。
本当は思ってない。

蓮がどうでもいい存在なら、友達でいる必要がないし、クリスマスにこうして二人きりになる事も無い。

私が一線を越えてしまうのが怖いから、固い殻で覆うしかなかった。



「…わかった。お前が俺の所に戻ってくるまで信じて待ち続けていたけど……。お前がそう言うなら仕方ない。」

「…蓮。」


「偽恋人、解消してやるよ。」



蓮は沈痛な表情でそう伝えると、背中を向けて去って行った。