彼女は一寸のブレも見せない蓮の態度を見ると、悔し涙を浮かべて逃げ出すようにその場から去ろうとしていた。


だけど、彼女が告白スペースから出るには、いま自分がいる道を通らなければならない。
後ろを見ても、横を見ても、数秒以内に逃げ隠れる場所なんて何処にもない。



マズイ!
あの子が私がいる方向に来ちゃう。
近くでコッソリ聞き耳を立てていた事がバレちゃうじゃん。



梓は逃げ場を失ってアタフタしていると…。
走り迫ってきた彼女と、すれ違いざまに目が合った。
すると、彼女はギロッと怖い目で睨んでから通り過ぎて行った。



一瞬、鬼かと思った。
それくらい恨み辛みの募った目つきだった。

一方、その場に一人取り残された蓮は、俯きざまに深く大きな溜息をつく。



蓮は私がこの場に居てもいなくても関係ない。
間接的にぶつけてきた感情は、付き合っていたという過去形ではなくて、まだ続いている現在進行形だった。



梓は告白を目撃した事を蓮に気付かれないように、現場から離れた。







梓が教室へ戻ると、同じく蓮を探し回っていた紬と遭遇。



「東校舎も西校舎も見たんだけど、全く見つからなかったよ。梓も見つからなかった?」

「うん…。どこ行っちゃったのかな。」



紬には蓮の居場所を知らないフリをした。
蓮の為にも、告白現場は見なかった事に。

それから間もなく、蓮は教室へと戻って来た。



「悪りぃ。担任に用事があって職員室に行ってた。」

「蓮くん、それなら先に言ってよ!校内探しちゃったじゃん。」


「ごめんごめん。」



何事も無かったかのように誤魔化す蓮。
きっと、私達に無駄な気を使わせない為だと思った。