高梨は平静を装い椅子に深く腰をかけ直す。



「…柊くんが、菊池の力に?」

「梓は人に心配かけないように肝心な事を言いません。だから、先に周りの人が異変に気付いてあげないといけないんです。……だけど、昨日梓に先生が彼氏だと打ち明けられた時まで、私は先生という彼氏の存在に気付きませんでした。それは、先生が梓に助け舟を出していなかったから。」


「……。」

「今は先生の代わりに柊くんが偽彼氏として、元カノの梓を守っています。」


「柊は俺達の関係がバレないように影武者になってくれてるだけじゃなくて?」

「梓はそう話したんですね…。でも、実際は梓を守る為。今は偽彼氏だけど、柊くんは別れた今でも忘れられないくらい梓が好きだから、毎日全力で守ってます。……先生は梓の彼氏なら柊くんに負けないくらい努力してくれませんか?…私は、柊くんと梓が復縁してくれる事を今でも願っていますけど…。」

「……。」



高梨は次々と明かされていく現実に言葉を失った。



知らないところで嫌がらせを受ける梓。
そして、影から支える元彼 蓮の存在。

そして、堂々と梓の力になってあげられない微力な自分。





高梨の口から言葉が消えた。
瞼で伏せた瞳に映し出されているものは、蓮と向き合ったあの日の梓を思いやる蓮の表情。

高梨はやるせ無い現実に打ちひしがれると、ただ静かに拳を握る事しか出来なかった。



紬は話終えると席を立ち、机の上の荷物を持って静かに教室を後にした。