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「本っっ当にあいつさぁ、蓮の彼女だからっていい気になってるんじゃないの?蓮とあいつは月とスッポン。鏡見て気付けよってカンジ。」

「確かに。あの二人は似合ってないよね〜。柊は花音と付き合えばバランス良いのにさぁ。」

「あいつはイケジョコンテストにすら呼ばれてないのに、蓮の彼女だからっていい気になってるよねぇ。」



今日も女子更衣室で繰り広げられる、花音達の悪口トーク。


ここまで来ると、もうほぼ名指し。
先日のカラオケドタキャンの件がバレてしまったらしく、今日は一段とご立腹なようで…。



花音は諦めが悪い上にしつこい。
自分が他の男と交際していても、蓮の事は忘れない。

ある意味、一途。
だから余計面倒。

だけど、延々と悪口を言われるのは正直胸くそ悪かった。




ーーそんなある日の体育の授業中。


ズサーッ……



「あーっ…いたた。」



クラス全員がグラウンドを走ってる最中、蓮は目の前で転んだ花音に気付いて近寄った。



「大丈夫?」

「転んで膝をすりむいちゃった。足が痛くて一人では立てないから手を貸してくれない?」


「いいよ。保健室まで一緒に行こうか?」

「ごめーん。お願ぁい。」



私は二人のそんなやりとりを10メートル後ろから見ていた。


花音は本当に構ってちゃん。
実際に怪我をしてまで蓮にしがみつくなんて、実に演技派女優以上。

そんな悪女にあっさりと騙された蓮は、これが演技だとも知らずに自分の肩を貸している。



期末テストが近付いてきてただですらストレスが溜まっているのに、花音はさっき私の事をスッポン扱いした。

花音は確かに美人でイケジョコンテストでも三位に入賞していたけど、それを鼻に掛けるところがどうしても気に食わなかった。



「痛っ。足がつっちゃった…。」

「梓っ…、大丈夫?」



保健室に向かおうとしている蓮達を見ながら走っている最中、突然足が攣った。
運動不足が原因だと思われる。

隣で走っている紬は足を止めて、足元を押さえてる私に寄り添った。



だが、遠くで私の微かな叫び声にいち早く気付いた蓮は、支えていた花音の腕を解いて私の方へと駆け寄ってきた。



「大丈夫?足がどうした。救急車を呼ぶ?」

「あはは…。そこまで重症じゃないから大丈夫だよ。」



確かに本当に大した事は無い。
吊った痛みは一時的なものだから、時間を置けば大丈夫なんだけど…。

蓮は突然私の身体をすくい上げてお姫様抱っこをした。



「ひやっ……。」

「誰かーっ、救急車呼んでー!梓が骨折したかもしれないから。」


「ねぇ、蓮ってばぁ!そこまで重症じゃないって。」



足を痛めた私に心配で焦り狂う蓮。

一方、蓮にその場に置き去りにされてしまった花音は、遠くから私達のやりとりを見て悔しそうに睨みつけてくる。

突き刺さる視線は痛くも感じるが、地味に嫌がらせを続ける花音に少し勝ち誇れたような気になった。



花音に仕返しをするのなら、直接攻撃ではなく心理作戦が最も効果覿面だと思われる。