先生は、車を飛び出して行った私を見てどう思ったのかな。
きっとショックを受けたよね。

ここに来る最中何度も着信があったから、気が気じゃなかったはず。



でも、蓮の身体が無事なら早く先生の元に戻らないと…。
凄く心配してると思うし、午後からのサーカスも楽しみにしている。



「先生が待っているからもう行くね。」



梓はそう言って蓮に背中を向けて、まだ間に合うかもしれないサーカスに向かおうとした。


ところが、蓮は玄関から一歩前に出て梓の右手を握りしめた。



「行くな……。」



そう言った蓮の真剣な眼差しは、振り返った梓の目を釘付けにさせた。



「えっ………、何言ってるの。私はいま先生とデート中で、午後からバックルのサーカスが始まっちゃ…」
「じゃあ、何で俺んトコに来たの?お前にとってはデメリットの塊じゃん。」

「それは、蓮の事が心配…」
「お前は自分の意思でここに来たんだろ。高梨(あいつ)と一緒にいても、俺の事を考える隙があったって事だよな。……もしそれが正解なら、あいつんトコに行くな。」


「蓮…。」

「いまお前の気持ちが揺れてんのに、行かせるつもりなんてないから。」



そう………。

私は誰に強制される訳でもなく、自分の意思でここに来た。
蓮を放っておく事も出来た。
自分の代わりに大和や奏に頼む事も出来た。

でも……。
何故か見て見ぬふりは出来なかった。




蓮は王様。

別れた今でも王様。


私達はもうとっくに別れているのに…。
蓮は別れた今でも私の心を支配している。