もしかしたら、先生と交際を始めて四ヶ月経ったから、いよいよ倦怠期を迎えたのかもしれない。
だから、小さな事でも引っかかりを感じるのかも。


蓮の時は、交際開始と共に嫌がらせが始まって常に気持ちに余裕がなかったせいか、倦怠期は感じられなかった。



先生が人生で二人目の彼氏。
まだ二通りの恋愛しか経験してない。

だから、先生がどうこうじゃなくて、初めての倦怠期に心がついていけないだけかもしれない。






先生の車に乗り込んでその場を離れると、先生は信号が赤に変わった隙に、助手席のグローブボックスの中からサーカスのチケット2枚取り出して私に手渡した。



「実は先月サーカスのチケットを予約しておいたんだ。今日が開催日だから昼食後に観に行こう。」

「『バックル』……?ねぇ、これって世界的に有名なあのサーカス団じゃない?」


「そうだよ。バックルを知ってたんだね。」

「すごい!よくチケットが入手出来たね。…でも、高かったんじゃないの?」



梓は目の前の高額チケットに隣から心配そうに問う。



「ははっ…。梓に喜んでもらう為に買ったものだから気にしないで。最近、色々ゴタゴタしてて気持ちに余裕がなかったから、今日はご褒美としてゆっくり楽しもうね。」

「うん。」



最近、気持ちに波があって疲れ気味だったけど、先生の気遣いが嬉しくて思わず笑みが溢れた。



人はみな完璧じゃないから、気になる事ばかりに焦点を当てちゃダメ。
倦怠期になんて負けちゃダメ。
蓮の事なんて気にしないで、先生の良い所もしっかり見ていかないと。



梓は沈んでいた気持ちを立て直しながら、高梨とのデートを素直に楽しもうと思っていた。






車を走らせてから10分後の高速道路付近に差し掛かった時、梓のカバンからスマホの通知音が鳴った。
梓はカバンからスマホを取り出してバックライトをつける。

通知元は蓮。
しかし、名前の下には…。



『助けて』



と、梓に助けを求める一通のメッセージが残されていた。